7月23日写真


2階ワードルーム


ハブからの眺め


ユースケフィールドワーク

7月23日

ジョン・クラ―ク

Sol4

Mars160の後半ミッションで4日目となる今日の気候は、少し良くなりつつあるけど、天気良好というにはほど遠い。

雨は降らず、時折突風が吹く。経験から見て風速80㎞/時程度だろう。ハブの中には気象観測システムがある。1階は2階より寒い。時々水滴が落ちてくるので雨のようだ。天井が結露して水滴が壁を伝って落ちてくる。室内外ともにもっと乾燥してほしいと思う。

今朝、アヌシュリー、アナスタシア、ユースケの三人が水を汲んできた。午後はアレックス、ポール、ユースケがクレータの底を横断してEVAもどきの活動を行った。

我々の感じでは、宇宙服を着ながら安全に屋外を歩くには危険すぎるぐらいの強風である。それでも彼らはクレータの中を偵察することに成功した。クレータの中はぬかるんでいて、現時点では一部川床部分は4輪バイクが走行できそうな感じである。EVAチームはCGを使ったポリゴンの3次元イメージを作成する機会を得ることができた。ハブ内部では無線通信と望遠レンズ監視によってEVAチームの進捗状況をモニターした。無線通信の質はたいへん高くMDRSよりもずっと性能が良い。それも、EVAチームがクレータの縁に隠れたり川床に入り込んでも通信状態は良かった。期待するのは、明日は風が弱くなり、宇宙服を着用してEVA活動に戻りたい。いずれにしても、我々の計画では地質学的探査を行う。この状態は火星でも問題になるかな。恐らくそうならないでしょう。

火星の風が強くても、空気の密度が地球よりずっと低いので力は弱い。そのため、火星のEVAにおける風の影響はずっと少ないだろう。

週間報告
ジョン・クラーク
7月23日
赤いプロペラ双発飛行機が北極圏の茶色っぽい高台に接近する。その高台の頂上に築17年目の缶詰のような建物が見える。これそこフラッシュライン火星北極研究基地(FMARS)である。

なんどか低空で施設周辺を周回飛行したのち、飛行機は減速し、ハブから2.5km先に着陸した。基地はMDRSに似た建物だが、建築は多少異なる。部屋の広さはMDRSより少し広い。

2階平面はMDRSの平面を逆にしている。浴室とトイレは壁で仕切られている。小さな収納部屋も併設している。そのため、1階はオープンな空間が少なくなっている。床は少し低いようなので1階の天井高は低いように感じる。でも屋根裏は広いので、一般的な収納スペースとして重宝する。

Mars160の前半のクルーはすでに到着しており、残りは明日到着する予定である。

クルー到着の写真2枚

興味ある考えが有人火星ミッションに思いめぐっている。いくつかの観点から、火星への旅は楽ではなかった。気象や地面の状態から、クルーはレゾルート湾に3週間足止めされたことになる。

アレックスコメント
私のコマンダーとしての役割は、リソースを効率的に使うことを考えることである。時間はもっとも重要で貴重である。レゾルートでの我々の厳しい状況にもかかわらず、クルーは活発に、そして生産的な状態を保つことができた。しかし、個人的にいえば、その時にミッション全体の命運について疑問を持ったことは確かである。これまで旅程のある時点では、最終目的地に到達しなければならないか、ミッションそのものの目的を失うかもしれない。

ユースケコメント
日本の格言に、「急がば回れ:Walk don't run」というのがある。この意味は、ゆっくりだが着実に行うほうが最終的には成功する、といった意味である。思うに、待つこともミッションの一部である。少なくとも、FMARSは閉じていた。だから、心のプレゼンスを失わず、準備の時間を失わず、チャンスを見逃すな、ということ。レゾルートで我々がこれらすべてを実行できた。

ジョンコメント
レソルートでは魅力的な場所で、数百人の人間が火星に定住したら、こんな感じになるんだろうな、なんて想像できる感じである。私は将来利用できるデータをたくさん集めることができた。環境は大変興味深いく、デボン島の状態を事前に体験できる感じであった。また、予定のコーンウォリス島遠征計画を練るのに有効であった。

アヌシュリーコメント
レゾルート湾はは大変美しく、イヌイット族が定住している部落である。ここは北極の窓と呼ばれており、夜明けのない場所である。私は、レゾルートの部落と未来の火星での定住化との間に驚くべき類似性を発見した。レゾルートで、FMARSに到着するまで滞在し続けたときは不安でもあり先行きが見えなかった。ミッションは短縮され、科学的研究活動の最終ゴールは危うくなった。

ポールコメント
これほど長く予定が遅れていることで、私が計画していた研究テーマをすべて実行すできることが不確実になった。この遅れによって、幸運にもアナスタシアが合流するための時間的余裕ができたことは大変運が良かったと思う。

アナスタシアコメント
私はクルーを待つことはありませんでした。代わりに、カナダビザセンターのお役所仕事に翻弄されていました。三度目のビザ申し込みも期待していませんでしたが、ロシア人が言うように「三度目の正直、神は三位一体を愛する」なんてことが起きた。今回の申し込みでビザが発給され、夜に荷造りして、翌朝には自動車を走らせて飛行に到着し、飛行機を乗り継いで最後にはついに仲間のクルーと合流できました。私は大変うれしくおもい、最後にうまくいったことで喜びいっぱい。火星の家族にも会えるし、FMARSのミッションを続けることができることは、この上ない幸福だ。

 

FMARS-デボン島のホートンクレーターの縁に2000年に火星協会が建設した世界初の火星模擬居住施設。クレータは浅い盆地で直径が15km、深さは140mである。空気は澄み切っており、遠くの縁(リム)が近くに見える。この施設は最も感銘を与えるし、すべての火星模擬施設の中でもっとも火星に近い。火星の小さなクレータの縁に建つ火星基地を容易に想像できる。地面は灰色がかった茶色で、主に岩石で覆われている。リムの成分は主にドロマイト(白雲石)で、クレータの底は灰色で覆われている。永久凍土の凍結融解現象によって、岩だらけの土地に岩石ごとに仕分けされた多角形の網目模様を作り出している。

網目の中に網目があり、小さめの多角形は直径1.5メートル程度、大きめの多角形は4~5メートルである。景色としては地面がうねっており、低い平地で、川谷で分断されている。雪解け水によって、きれいな砂利が下のほうに流れ出ている。沢山の残雪が斑点模様のように残っている。生命体については、植物は皆無、わずかに苔が生え、少数の地衣類が見られ、野生の花の小さな茂みが見られる。湿った場所では興味深い生物膜(バイオフィルム)と岩の下で育つ生物(ハイポリス)が見られる。まれに動物の足跡を見つけることができる。しかし、サンゴチュウ、スポンジ、オウムガイの化石がいたるところで発見できる。

さて、とにかくクルーが到着し居を構えた。興奮と喜びを期待しているクルーもいる。しかし、感情的にはもっと複雑で微妙なニュアンスを感じているはずだ。

 

ポールコメント
私は安堵感を感じている。今週には研究を始めることができるし、観測機器の設置も終える。作動すればもっとリラックスできるし、やるべき作業の残りについてより真剣に考えられると思う。そしてシミュレーションの最終目標を達成することも期待できる。

アヌシュリーコメント
クルーの仲間が、ハブの上からの景色を私に見せてくれた時、ものすごく感激した。今、その施設の中に私がいることに衝撃を感じた。この小さなハブは惑星の頂上に建っていて、世界中の大部分の人には見ることができません。笑いが止まりませんでした。だから自分がどう感じているのか? そうです、素晴らしいの一言。何も考える必要がない。

アナスタシアコメント
いろいろ感じることがある。この特別な場所に居て、そして火星の家族と一緒、という人生の新しい章が始まることに興奮する。私がMDRSではなく、ここにいることを理解することに混乱をきたす。クルーメンバーと別れる悲しみ、それを誰も癒せない。科学研究での発見を見るときの好奇心に溢れ、今回のプロジェクトの結果を手にする期待と予感が入り混じる。

ユウスケコメント
予想していたより興奮していない。理由ははっきりしないけど。恐らく、個人的にはレソリュートに到着したとき、すでに私のミッションは始まっているからだと思う。そして今、厳粛に、そして静かに前進する時なのだ。

アレックスコメント
これまでのところ、負担の大きい日々を過ごしてきたが、私には何かを感じる自由はそれほどなかった。自分にとって大事なのは、すべての仕事を着々とこなし、やるべきことをやり、クルーが適切且つ効率的に作業を行えるように、すべてを同調させることである。でも、私は数分間でも一日でも、私の考えと心配ごとからうまく逃れられることに気が付いた。そのようなときに、地球の火星模擬基地に到着したことに驚きを感じる。

 

アヌシュリー
Mars160プログラムは二つに分かれている。前半はMDRSにて昨年秋に実施された。FMARSはこのプログラムの最終章となる。今回のFMARSの最終目標は科学的研究である。それにはフィールドサイエンスが含まれ、クルーたちが遠隔地でどのような分野のフィールドサインがクルー全員で協力して実施できるか実証することにある。今回のミッションは到着の遅れによって短縮されるが、新たな時間的制約の中で要求条件を満たす方法を再検討しなければならない。今回のミッションでは、私は地上ベースの科学者として実行するために、主に火星ベースの科学者として指名を受けた。私にとって、このクルー仲間とのMars160ミッションは私の滞在の最も魅力的なものである。極限活況で、尚且つリソースも少ない環境を考えると、今回のミッションは、遠隔地での科学チームと私の間でフィールドサイエンスを行う点で、非同期の通信と非同期の位置確認のテストをテストすることでより意義あるミッションとなる。FMARSは、この場所だけでも様々な火星極地の特徴を体験できる、実に最適の場所だと思う。例えば、大昔の隕石衝突によるクレータの横であること、つまり火星のゲイルクレーターに似た湖がかつて存在したこと、熱水利用の原点を示す地形を示していること、周氷河地形(注:地中の水分が凍結や融解を繰り返すこと)のパターンを表している地形、隕石の衝突の影響で熱水による蒸発(岩)鉱床があること、昼夜周期、そして完璧な孤立化等。
ミッションの遅れで、この地域の探索機会が少なくなったことは確かであるが、同時にサンプル採取の回数も少なくなる。しかしながら、クルーの適切な計画と調整が行われ、遠隔地の科学チームによって最終目標が達成されると思っている。

ポール
私は、クレータの底で収集したかった本来のデータが取得できないと思う。kれも到着の遅れが唯一の理由ではなく、ATV走行ルートがぬかるんでいることが最大の原因である。短縮された時間と修正された研究目標の結果として、作業が増加し、EVAの機会も少なくなった。私の研究課題はホートンクレータ周辺の異なるタイプの地表の紋様を分類することに集中し、この地の永久凍土の形成の特徴と長期の渡る進化の過程を理解することにある。類似の地質的特徴が火星でも発見されているので、地上におけるこの地形形成の歴史を知ることで、太陽系の他の惑星でどのように形成されるのかの洞察力を養うことが出来る。個人的にこのミッションに期待することは、今回のミッションでは安全で楽しい時間を過ごすことが重要だ。過ごした時間が、残りの人生にとって色を飾ることができる体験をすることである。私は、このミッションの間に期待した通りの材料を収取でき、そのデータを異なる分野で後々利用ができ、メディアで語ることが出来、研究を発表し、講義にも使え、あるいは火星技術や火星建築の設計につながるアイディアが生まれるかもしれない、ことなどを期待している。


火星協会旗を掲げる

FMARS上空からの画像

網目の模様

FMARS施設

ホートンクレーアリムから撮影

FMARS2階のインテリア

ジョン
私の研究は三分野に焦点を当てています。一つは、ホートンクレータが形成されたときに隕石の衝突によって地中から掘り起こされたシルリアン・アレン湾の地層を研究すること、二つ目は、疑似火星極地の表土地形を分類し、分類ごとの分布の度合いを調査する、三つめは、模擬火星表面に滞在する時の毎日のスケジューリング、時間管理、EVA能力などの情報を集めること、である。三つ目の課題だけが、データ収集の時間が短縮されたことによる影響を強く受ける。でも、ユタ州での前半の実験と関係づけして今回のデータを使用すれば、有用な研究結果が十分に導き出せると考えている。

ユースケ
私は安全で健全な状態でミッションを終了し、平和に生活し、仲間と一緒に楽しみたいと思う。報われない作業を進んで行うといった、南極の時の理想的な役割を担い、皆から頼りになるクルーでいたいと希望している。北極は予想しているよりも厳しい環境である。フィールドサイエンスプロジェクトは私が担当するプロジェクトよりも最優先されるべきものである。それはそれで問題ありません。ということで、個人的なプロジェクトには他のプロジェクトとの間に一線を引くが、他のプロジェクトと協力できる方法を見出すだろう。私は三次元データのアーカイブ構築に焦点を当てている。基本的にこのアイディアは建築設計の三次元データ構築のアイディアから由来している。一般的には火星の外観を二次元で理解しなければならない。将来火星で研究する科学者がフィールドリサーチ実施の際に、「人間中心的設計」という意味で簡単、単純、迅速、利便性、安価な方法で、火星の三次元データを二次元データの変換できる手法を考えたい。私はフィールドサイトのアナグリフ(注:赤青メガネ-左右に異なった色フィルターが付いている-で見ると立体的に見える画像)画像や高分解能の360度画像取得に挑戦してみたい。

アナスタシア
いつも私が言っているように、目標を高く設定しよう!なぜならいろいろな意味であなたの成長に助けになるでしょう。Mars160に参加したことで、個人的に成長できたし、多様な能力を手にしたし、問題の多い現在の世界に新しい視野をもたらしてくれた。FMARSでは、多くを期待しており、MDRSよりも過酷な環境で資源ももっと限られており、新たなレベルの創造性、スタミナ、そして激務を要求される。私はロシアの生物医学問題研究所出身の心理研究におけるコーディネータです。そして極限環境と孤立環境でクルーは長時間を過ごし、より貴重なデータを研究所が得ることになる。幸いにもこのテストはフィールドサイエンスの活動とは影響し合うことはありません。なので、私の仕事はミッションの遅れによる影響はより少ないです

アレックス
最初の予定の遅れは運が悪かったです。火星模擬施設でのフィールドサイエンスは特別なものです。地球上の科学者がサンプルを収集し、研究室に持ち込んでさらなる分析を行う。実際の火星では恐らくサンプルを拾い上げる前に、地球に持ち帰るか破棄するかを決める前に、おそらくサンプルの初歩的な分析を行うでしょう。新しい時間制限によってクルー科学者は分析作業に多くの時間を費やすことはできないでしょう。目視による判断力と直感に頼ることになるはずです。ロボットでは分析作業はできないでしょう。フィールドサイエンス活動の結果は、そういった意味で興味深いです。フィールドサイエンス活動をサポートするために、私は宇宙服ユーザーインターエースに関する技術的研究を行わないでしょう。また、フィールド科学者であるアヌシュリー、ジョン、あるいはポールの誰かにEVAの間、シロクマ対策用の猟銃を携帯させることはできない。といことは、FMARSに滞在中に必要となる猟銃携帯を引き受けることになるだろう。クルーはこのミッションに対して大変献身的ですし、限られた時間を最大限生かしてくれると確信している。また、不幸にも予定が遅れたことから学んだこともあっただろうし、その学習効果が将来のクルーの活動に生かされるだろうと思いたい。

 

 

科学リポート 7月23日

アレクサンドル・マンジョ

EVAの間、我々は興味あるものを発見した。蜘蛛である。蜘蛛を見つけたのである。その蜘蛛を捕まえ、さらなる分析を行うためにハブに持ち帰った。水たまりの底におそらく赤い藻類を発見した。さらなる分析のために撮影しサンプルを持ち帰った。過去のEVAでは発見されなかった新種の花を発見した。

コマンダーリポート 7月23日
今日は悪天候にもかかわらず大変生産的な日であった。今朝ほど、我々は、朝の煩わしい作業と午後のEVAの間で、どちらを最初にするかを悩んでいた。とにかく滞在時間が短縮されたために、私はEVAと科学的活動を優先したい。そこで、朝であろうと午後であろうと天候がEVAに最も適しているのを見計らってEVA開始を決断するのがいい。今日の天候は午後のほうが良いだろうと予想したけど、結局予想が外れてしまった。午後1時ごろEVAを開始しようとしたら雨が降り始めた。我々の科学的目標を達成するために、宇宙服着用無しで擬似EVA活動を強化した。結局、外に出た後に雨は降らなかった。二度も判断を間違ったけど、天気というのは正確に予想することはできないし、そもそも正確な天気予報なんて存在しない。結局、天気は当てずっぽうということになる。いかなる活動に対して最も安全な方法を取らざるを得ない。雨の中で宇宙服を着用しての活動は、視野が悪くなるので安全性が脅かされる。若干のサンプル収集を行いサンプル目録に加えた。

エンジニアリングリポート
アレクサンドル・マンジョ
今朝、水を採取してきた。一時間以内の作業だった。ゴミ焼却炉を作動させるために電力が必要なので、発電機は朝の間中、通常はスイッチオンになっている。今朝、スピーカを修理した。現在は音質の良い映画を見ることができる。

HSOリポート
アナスタシア・ステパノワ
各クルーメンバーの健康状態は大体良好である。大きな怪我もなく、修理の時の小さな切り傷程度である。切り傷は消毒して治癒した。軽度の疲労で今朝は皆さん少し長く睡眠をとった。天気次第では一日24時間太陽が輝いている。そして身体活動も似た感じになる。良い睡眠、良い食欲、カビによるアレルギー無し、腸の活動も正常。クルー全員のやる気は良好です。