8月4日
火星歴16日 活動概要
ジョン・クラーク

今日は異常に静かな朝だった。窓に付いたしずくを払い、窓の外を見て、その静けさの理由が分かった。周辺が濃霧に覆われていたのだ。視界は200メートル以下という感じだ。この濃霧はほぼ一日中留まっていた。まれに上昇したが再び降りてきた。地面は相変わらず湿っていて、前回の雨で地面の水分は飽和状態なので、いたるところで水たまりが出来ていた。永久凍土の上にかぶさる土壌の厚みはわずかなので、水分を吸収できない。今日撮影の画像では、現状ではなく、将来こうあってほしいと希望することを示している。クレータは霧ではなく光で満たされていた。数日前には30分程度太陽の光に照らされることもあった。ということで、今日はEVAは無しで失望状態。地面は溝を掘るにはウェット状態だし、ドライブするには視界が悪く、もっとも単純な3D画像撮影さえもできない。ということで、今日は全員室内作業を行った。

清掃、照明設置(に挑戦?)、古い食糧等の仕分け作業、メモの作成、そして適切なEVAが可能になった場合の一日の作業計画作成等などをおこなった。一部のクルーはシャワーを浴びてきれいさっぱりとした。このことで全員綺麗になり、本来の人間の姿に戻った。

 

科学リポート 8月4日
クルー生物学者 アヌシュリー・スリヴァスタヴァ
「ホートンクレータの構造と原子的生命体の証拠」

隕石衝突で引き起こされたホートンクレータにおける熱水石こう堆積物は、火星専門の科学者として個人的には重要研究テーマである。クルーの地質学者であるジョン・クラーク博士と、地球ベースのNASAエームズ研究所とSETIのアルフォンソ・ダビラ博士と共に、私は熱水硫化物の中に生命の痕跡が保存されている可能性を理解するための研究を行っている。ホートンクレータ地層構造は、3千9百万年前にカナダ高緯度北極と呼ばれる場所に巨大な隕石が衝突して作られた。直径24キロメートルのクレータはデボン島にあり、世界中でもっと大きな無人島だと表現されている。隕石衝突(インパクト)クレータは宇宙生物学者にとっては常にホットスポットであり、火山活動や熱水過程で生命が育まれた痕跡を探求する。そして、原始生命体が進化し存在し続けた(或いは続けている)地球圏外の惑星との類推手法を確立する。中新世のホートンの地質構造は、隕石衝突で生成された熱水(impact-generated hydrothermal)活動と硫酸塩結晶化の歴史が良好な状態で保存されていることが期待される。ゴードン・アシンスキ、パスカル・リー、チャールズ・コッケルはホートンクレータの硫酸塩鉱床を広範に調査し報告書を出している。興味深いことに、彼らは硫酸塩結晶での微生物コロニーの形成を立証し、これらの微生物が生き延びるために好ましい生態的地位を見出すために結晶構造を修正していることも発見した。この微生物共同体は本来の場所で増殖しシアノバクテリア(藍色細菌)の起源となることが判明した。


図1:石膏(ジプサム)結晶の中で成長するシアノバクテリア(藍色細菌)細胞構造

それで、ジョン・クラーク博士と私はゴードン・オシンスキが「衝撃的な場所:impact supersite」だと表現した場所へEVAで探索する計画を立てた。その場所はクレータのほぼ中央で、FMARSから10キロメートルの距離である。私はその場所から硫酸塩堆積物のサンプルを収集し、生物が発生して繁茂し、隕石衝突に起因する熱水現象が過去に発生して化石化、あるいは現在も生存をしている可能性を調査する。私たちは中期オルドビス紀 フィヨルド地層群の中で露出する石膏蒸発残留岩をサンプル採取した。トールステンソン他の1987年の論文よれば、フィヨルド地層は主に石灰石/白雲石、そして粘土質/沈泥蒸発残留岩で構成される。地層群は4種類のメンバー(岩石学的に異なる地層の一部)に分けられ、AからDに分類されている。Aのメンバーだけが石膏/硬石膏沈積物で構成される。


図2:アヌシュリーとジョンが石膏の岩盤でEVA調査


図3:ホートン隕石クレータ。FMARSと熱水現象場所(Supersite)

硫酸塩は代表的な塩類で火星でも観測されている。ここベイフィヨルド地層群では、石膏(ジプサム)は海水の蒸発を通して堆積した。クレータの他の場所では石膏は隕石衝突によって引き起こされた熱水活動の結果として形成されたことは知られている。火星と地球の形成プロセスが、火星で低温液体水から硫酸塩の沈殿に似ていると考えられる。

つまり、塩水に存在していた微生物生命体は、過去に石膏結晶の微細な流体包有に避難したか、あるいは退廃段階の間に保管層(depository layers)に生命体の痕跡を発見している。それ故に、蒸発残留岩の中に生物指標化合物(biomarker)が保存されているという考えを実証することは大変魅力的な作業だ。


図4:インパクト スーパーサイト(注:衝撃を受けた観測場所で最適な場所という意味?)


図5:
写真A:デボン島の熱水スーパーサイトにおける石膏(ジプサム)鉱脈、
写真B:火星におけるエンデバークレータの石膏(ジプサム)鉱脈