8月11日 ジャーナリストリポート
アナスタシア・ステパノワ

北極の火星、日々の生活

MDRSと同様に、私の個室は大き目の舷窓(丸窓)の反対側にある。毎朝、私はこの窓からの外の眺めを見ながら目を覚ます。エイリアン(異界)の世界だ。ただ、透明ガラス越しにいつでも何かが見えるとは限らない。ハブの内側の結露で舷窓が曇ることもある。一日に数回、水分を除くためにガラスを拭く。早起きの地質学者ジョンが最初に起床し、発電機を起動し、お湯を沸かし、暖房機を点火し、電子メールをチェックする。発電機の音は、まるでクルー全員に向けたアラームのようだ。そして気持ちの良いベッドから各々のクルーが起きてくる。階下のトイレには列ができて、寒い人は震え、あくびをする人、「おはよう」の挨拶、このような同じ感じで毎日が始まる。乾燥ミルクにコーヒーとパン、シリアルと即席オートミールで命がつながる。そんな時だけ、ブリーフィングを始めることが出来る。今日の作業、料理、食器洗い等の今日のスケジュールを確認する。

毎日の定常作業は、文明社会の手順とは異なり、気の進まないレアなものばかりだ。灰色の水の処理、つまり、食器洗いやシャワー等からの排水の処理をする。その方法は、外にある特別な樽に溜まった灰色の水を、少し離れた場所に掘った穴に流し込む。樽は重たいため、普通は最低2人が一緒に作業する。ゴミや排泄物をゴミ焼却炉で燃やすのも一日の中でエキサイティングな瞬間である。そこで、質問をしたい気持ちがわかる。「排泄物を燃やす?」。 これは地球とは最も異なる一番目と二番目の作業がこれ。この島の自然を守るために、私達は次のステップを守らなければならない。小便は特殊な漏斗(じょうご)にする。漏斗は外の特殊な樽につながっている。樽が一杯になると航空機に積まれ、島の外に運び出される。次は、二番目の準備として、まずは小さなビニール製のゴミ袋を取り出し、便器に設置する。そして大きいほうの用を足し終わったら袋を結び、特別な大便用樽に入れる。そして、最後はこの袋をゴミ焼却炉で焼却する。簡単でしょ? 思ったより粗末な方法ではないはず。火星有人ミッションでは尿から水分を抽出したり肥料に再利用する等の方法が取られるでしょう。今回は、そこまでやらなかった。

水はどこから確保したのか? 私達はハブから数百メートル離れた溶融水の川から運んだ。この作業は危険を伴う。まず猟銃携帯者か、熊を監視する人が外に出て、回りの安全を確認する。そして1台のATVにトレーラーを連結し、川に向かって運転する。川では、二人が携帯容器に水を入れる間、もう一人は危険な熊を見張る。水をハブに持ち帰ると樽に水を移す。樽から台所や浴室へはポンプで配水する。純粋な北極の水でシャワーを浴びたり洗濯するなんてことをできる場所は他にあるだろうか。シャワーの後で私の皮膚が若返るかどうかはわからないけど、とにかく良い感じで、しかも清潔である。

EVAは日々の生活の中で素晴らしい部分であり、通常2時間から5時間行う。料理、報告書作成、論文作成、科学研究室での作業等で数時間を費やす。それでも少し時間が余るので一週間に2回ほど、SFテレビシリーズの「Expanse」を鑑賞し、休日には映画を鑑賞する。読書をする人もいれば、写真を扱ったり、中には歌を歌ったり。私はヘッドホンで気持ちの良い音楽鑑賞や、自転車をこいだりする。自転車は大きな舷窓の前にあり、ホートンクレータの壮大な眺めを楽しめる。三千九百万年前のクレータで仕事し研究できる世界なんてほかにあるだろうか? ここだけでしょ。雄大なデボン島、そしてユニークなFMARS。

 


湖の縁にたたずむアヌシュリー


ドリルで穴を掘る宇宙飛行士


遠くからハブを眺める


ハイポリス


広大なポリゴン


宇宙カメラマン