8月12日 ジャーナリストリポート
アナスタシア・ステパノワ

「人間とは食べるものなり」or 「人間を形づくるのは食なり」:We are what we eat

宇宙開発競争が開始される前に、人々は宇宙食は錠剤で提供されるものと考えていた。完全に消化可能で料理も不要、というものであった。しかし、錠剤の宇宙食は発明されなかった。初期の宇宙開発時代には、60年代のソ連時代と米国では宇宙食開発プログラムを開始した。地球軌道を飛行しながら、初めて宇宙食を食べた人間はユーリ・ガガーリンだった。

彼は空腹ではなかったし、宇宙飛行はわずか108分であった。しかしガガーリンは無重力状態で人体が食物の消化の可能性をテストするために食べざるを得なかった。食物はミンチの肉とチョコレートをチューブに入れて提供された。もちろん、別々のチュウーブだけど。人間は宇宙でも食物を消化できる。しかし、味覚は変化する。宇宙飛行士がよく語るのは、無重力環境で食物を口にしたときの味覚は、ちょうど鼻をつまんで食べるときと同じ、というものだ。

でも真空パックと乾燥技術が発達したことで、チューブ形式は、ハチミツとソースにのみ使われている。宇宙空間まで1キログラムの物質を輸送するコストは、途方もない金額である。そのため、宇宙飛行士は、乾燥食を真空パックにしたり、肉や魚をアルミ缶に詰めたものを食べる。登山者や救助隊、あるいは火星模擬実験のFMARSで生活するクルーも同様である。どのような場合でもチューブは完璧な解決策である。腰を下ろして食事する時間が無い時は、チューブに入ったスープや肉のミンチでも十分お腹を満たすことが出来る。我々はこの種の宇宙チューブ食糧を「地球」から受け取っている。

宇宙食研究所はロシアの研究所で、宇宙飛行士向けの宇宙食を製造しているが、一般向けにも提供している。宇宙食研究所はMars160ミッションに気持ちよく協力してくれた。そして、多種多様な栄養食品や、健康的で栄養バランスの取れた食べ物を提供してくれた。通常、我々は一週間に二度、ロシア宇宙食のもてなしを受ける。食事の内容は、スープ、肉、そしてデザートの三種類のコースで構成されている。クルーは、この特別な料理をいつも楽しみしており、ロシア料理の新しい味の発見を楽しんでいる。野菜と牛肉を使った人気の赤いスープはボルシチ。ビートの根で赤く色付けされている。これ以外にも異なる三種類のスープが準備されている。カタバミ、羊肉、そしてピクルスだ。すべてのスープはチューブに入っている。オリーブを添えた牛タン、プルーン添えのチキン、アルミ缶の野菜を添えた子牛肉。デザートとして異なる味のコテージチーズ。味はリンゴ味、黒スグリ味、そしてシーバックソーン味。シーバックソーンは黄色の小さなベリー(果粒)で、主にロシアで成育している。みなさんがロシア食物に興味をそそられたことと思う。そしてお腹もすいたかと思う。

さらに、日本食の乾燥食も準備している。ユースケからフリカケが提供された。フリカケについて面白い話がある。おおよそ150年以上の昔、日本人がカルシウム不足だったので、熊本の薬剤師が薬用のサプリメントとして発明した。この薬剤師は魚の骨を乾燥させた後、砕いて粉状にした。そして海藻、ゴマ、若干の風味を加味して味を良くし、薬剤として患者に手渡した。人々はこの味が気に入り、ご飯の香辛料として購入し始めた。薬剤師は、このサプリメントを「ご飯の友」と命名した。フリカケはこの種の乾燥食糧の一般名称になった。つまり、ご飯に振って掛ける、という意味である。時間と共にこの食材は日本全体に拡散し、町々には独自配合のフリカケを作っている。特に日にちを特定していないが、各地の人々が希望すればいつでもフリカケ祭りが催され、フリカケの味を競い合う。祭りでは、食品会社が持ち込んだ異なる味のフリカケを参加者が味見し、最も味の良いフリカケに投票する。今では、ほとんどすべての料理にフリカケを加えている。味は普通じゃないけど美味しい。中身の種類の多さは印象的だ。酸っぱさ、塩辛さ、甘さ、パリパリ感等々。魚類としてタラ、カツオ、イカ、エビ、塩漬けのプラム、ウニ、アプリコット、ラーメン、それにインゲン豆等が含まれている。常温保存が可能、軽量、そしてカルシウム、海草ミネラル、鉄分、ビタミンE、その他多くの栄養素を含んでいる。日本人は海草は髪の毛に良い効果があると信じている。まあ、それでも一週間に一度は洗髪をするので、実際に良い効果があるかどうかはわからない。でも髪の毛が強くなりツヤツヤになることを期待したい。

もし、「人間を形づくるのは食なり」が本当であるなら、私達は宇宙飛行士のエネルギーと日本人の聡明さを兼ね備えるべきだ。私は、火星ではクルーは宇宙食を必要とすることは明らかであることは分かっている。しかし、それでも地球的な食事を料理しパンを焼き、家庭の温かいフィーリングを感じることは必要だと思う。夢に見る新しい家庭!


8月12日 火星歴24日目 要約
ジョン・クラーク

今日は大規模なEVAを成功裏に終了した。全員が、夜明け前の早朝に起きた。夜明けは15日まで起こらない。でも風通しが悪かった。雲が垂れ下がっていたが雨は降らなかった。すばらしいEVA日和だ。

ポールとユースケ、それに猟銃を抱えたアナスタシアのEVA最初のチームは朝の8時までに出口扉から出発した。彼らはポールのメガポリゴンの場所に行き、もっとたくさんのサンプルとデータを確保した。このチームは12時までにハブに戻った。その時間までに第2チームが昼食を済ませ、出発の準備が整っていた。そのあとすぐ、午後1時にアヌシュリー、私、それに猟銃携帯のアレックスの三人が出発した。このチームはジプサム(石膏)サンプル収集に向けた新たな場所を探査するために、クレーターの中心まで長距離ドライブを行った。

地質学地図を参考にすると、ジプサムのベイ・フィヨルド地層の露頭場所をEVA活動の場所に定めた。こお露頭はメガブレシア(brecci:角礫岩)露頭に替わり、たぶんホートンクレータを形成した影響によってたぶん形成されたのだろう。魅力的な露頭の発見で、価値あるドライブだった。露頭のベースで破砕した氷の割れ目で終わっていた。我々はクレータ中心に日光が注いだ壮大な眺めと、すじ状の太陽光の眺めを楽しんだ。ハブに戻る途中、ここで過ごした時間に思いを巡らしていた。

これが最後のEVAと思うと、どちらかというと寂しい感じがした。我々は自分たちの歩みを手に入れ、この自然の地形、我々の能力、そして取り巻くハードウェアに信頼を築きし、クレータとその周辺環境の中で長い長いEVAを成功することができた。もちろん、ここに2か月滞在できても、結局同じことを感じたと思う。時間がより長く滞在できた、それだけのことだろう。疑いもなく、未来の火星宇宙飛行士が火星を去るときに同じことを感じると思う。我々の経験は、火星での30日~60日の短期滞在に比べ、1年~1年半の長期間滞在のほうが価値が際立ってくる。

今夜、我々は疲労を感じるが、我々自身は大変満足している。今夜、「Expanse」を鑑賞するだろうし、明日は休日のため朝寝もできる。外では、望むなら雨も降るだろうが、気にしない。良い天気であれば、来週にはここを出発できる。


ジプサムの表面模様


ハイポリス区画法


インパクト石柱(隕石が衝突した際にできた石柱)


昼食メニューを解説するアナスタシア


露頭に登るアヌシュリー


EVAの様子を撮影中