8月13日 ジャーナリストリポート
アナスタシア・ステパノワ

私たちはここで何をしているでしょうか?

多くの方はこう思うでしょう。「なぜ北極まで来なければいかないのだろうか? 危険だしお金もかかるし、当てにもならないし。」 Mars-500のように、都市部の真ん中で模擬基地があり、でも完全に隔離され、短期のEVAlを小さな火星表面の模擬実験施設で実験を行うのと同じではダメなのだろうか?
Mars160ミッションは、他の火星模擬実験の中とは異なる目的を設定している。我々の模擬実験ではフィールドサイエンスが第一番目の目的になっている。二番目は隔離、三番目がオペレーション、つまり運用実験である。デボン島とユタ州砂漠は火星の地質と多くの類似性がある。

デボン島はインパクトクレータがあり、永久凍土環境があり、石膏堆積、そして砂漠的気候がそろっている。ユタ州の砂漠には、石膏(ジプサム)堆積、砂漠気候、粘土鉱物、そして砂丘がある。私たちのミッションの主な目標は、本当の火星で行われるミッションと同じである。生命の痕跡を発見するか、生命そのものを発見することにある。クルー生物学者のアヌシュリー・スリバスタヴァの肩にはすべての期待がかかっている。彼女は5件の微生物学研究プロジェクトの責任者であるが、そのうち2件だけが本当の火星ミッションで対応可能である。ハイポリス(注:北極と南極の生態系、カナダのデボン島等の極限環境で岩の下などに繁殖する光合成有機体)は、光合成する有機生命体で、気象的に極限環境の中で半透明の岩石の下で生息する。一般的に、この岩石は半透明(石英)で、ハイポリスは太陽光をあびる。また、水分も、岩石と、その裏側の土壌から得ることが出来る。

ユタ州のMDRSでのフィールドワークの間、私達はこの考えが正しいことを確認したが、デボン島ではハイポリスは異なる歴史を辿っていた。それらは石灰石の下で生息していた。石灰石はハイポリスを厳しい紫外放射線、乾燥、そして極端な温度から守っている。これらのことから、火星の岩石の裏側には微生物が存在し発見できる可能性が極めて高い。

もう一つの重要な研究は、石膏(ジプサム:カルシウム硫酸塩の水和したもの)のような古代の蒸発残留岩(注:塩水湖あるいは閉じられた海域で,海水の蒸発によって塩分が濃縮し,沈殿してできた化学的沈殿岩。)に閉じ込められた微生物の痕跡を発見することである。これらの微生物は好塩菌である。好塩菌(ギリシャ語では”塩分を好む”の意味)は、高塩分濃度の中で丈夫に育つ生命体である。この生命体は外洋の塩分濃度より5倍以上の濃度の高いところではどこでも見受けられる。

アヌシュリーが述べているように、「地球の光合成生命体は熱水利用硫酸塩の岩石の中に密封されて見つかっている。一方で、古代の石膏は、当時の液体の水の中に生息し、石膏の結晶化と共に石膏の中に閉じこめられた原始生命体を宿したかもしれない。もし、そのようなことが可能でなかったなら、生命体の劣化の間に残した過去の痕跡を私達は発見するかもしれない。そのような背景から、私達は石膏を調査することに大変興味を抱いている。火星表面に石膏の存在が確認されて以来、堆積物の中に似たような生命の兆候を検出する可能性がある。」

これ以外の3件の生物学的プロジェクトは火星で再現できるチャンスは少ないだろう。でも、地球の火星模擬環境なら運用上有利である。

地衣類の生物的多種多様性のマッピングと観察、北極の植物相と関連する微生物叢(ゾウ)の研究、北極の環境下における異なる藻類の共同体研究等々、EVAの間、アヌシュリーをアシストすることを通して、これらのプロジェクトに参加できることは実に魅力的だ。過酷な世界の中で微小生命体を発見すること、太陽光の下で、過酷な環境とどのように戦うのかを観測すること、我々の地球という惑星を異なる角度から見つめること、これらが、科学が最初にありきの理由である。


アメリカ国旗を掲げるポール


最終報告書を書いているアヌシュリーとジョン


トレーラーを修理するアレクサンドル


焼いたパンにハッピーなアナスタシアとジョン


フランス国旗を掲げるコマンダー


ジプサムの表面模様


探査中のジョンとアナスタシア