科学リポート 8月14日
火星のエンデバークレータと、地球のホートンクレータの比較
ジョナサン・クラーク

序文
デボン島のFMARS施設の場所選定に対する主な理由の一つは、ホートン衝突クレータの存在である。このクレータは地球上のクレータの中で最も調査されたクレータである。これに関する有用な要約報告書としては、2005年発行の隕石惑星科学がある。地質学と宇宙生物学の疑問に答えている。この報告書のカギとなるペーパーはオシンスキ(Osinski)et al、の論文であり、そしてそれに添付されている壮大なオシンスキの地質図が注目された。フィールドサイエンスに対する質問に加え、特定の設備機器テストに関連した疑問にも答えている。ヒューマンファクタ(人的要因)とオペレーションに関しても取り上げられている。


図1 ホートンクレータリム(縁)に建つハブの影

私にとって、ここにいることで興味をそそられる点の一つが、デボン島のホートンクレータと火星のエンデバークレータの類似性である。表1に特質の比較をまとめた。二つのクレータを比べてみると類似の特性が表れてくる。

模擬研究者にとって、類似性と相違を理解することは、ここでの研究結果を最もよく理解するためには大変重要なことである。ホートンクレータは火星のエンデバークレータと比較することが特に重要である。その理由は、火星のオポチュニティーローバミッションで実施された観測結果のためであり、そして、将来の有人ミッションの着陸地点としてエンデバークレータの可能性のためである。これに関しては私の最初の科学論文で発表されている。二つのクレータの直径は大変よく似ているし、後の浸食から決定することもできる。両方とも直径は約22キロメートル、ただ、ホートンの可視できるくぼ地はより小さく、縁から縁ではおよそ16キロメートルといったところだ。浸食の程度は両方似ていて100メートルと200メートルの間という感じだ。しかしながら、ホートンクレータはずっと浅い。これは地球の重力が火星よりも多きいことが理由かもしれないし、ターゲット材が弱いののか、あるいは玄武岩より堆積岩が理由なのかもしれない。これらの二つの要因によって、衝突力に反応する目標の表面を変える。

ホートン

エンデバー

直径

23 km

22 km

現在の深さ

300-350m

1-2 km

本来の深さ

500-700 m

1.5~2.2 km

浸食の程度

100-200 m

100~200 m

岩盤年齢

古生代 (4億5千万年前)

ノアキス代(>38億年前)

隕石衝突年

3千9百万年前 (新生代)

ノアキス代~ヘスペリア代 (~38億年前)

内部充溢
(ジュウイツ)時代

中新世 (2千7百万年~1千5百万年前)

ヘスペリア代 (<3千5百万年前)

表1:ホートンクレータとエンデバークレータの比較
注:火星の大きな年代区分は,古い方から現在にかけて ノアキス代(Noachian), ヘスペリア代(Hesperian), アマゾン代(Amazonian)の3つ。

 

二つのクレータは異なる物質で形作られているだけではなく、非常に異なる時代に作られている。ホートンは非常に若く、出来てからたったの2千9百万年しか経っていない。一方でエンデバークレータはずっと古く、恐らくおよそ35億年前にできたと推測されている。エンデバーはホートンよりいい状態で保存維持されている。理由として、火星では浸食がずっと遅いからだろう。エンデバーは氷河とか川の流れ等で浸食されないが、デボン島の景色は浸食で擦り減らされている。


図2:ホートンクレータのデジタル立面モデル(DEM)。直径23キロメートルのリムの外側が崩れていることを示している。中心のくぼ地の直径は16キロメートル、ホートン川が北東に流れ出ている。(出典不明)

 

エンデバークレータはヘスペリア代にバーンズ層の塩湖堆積物によって主として埋められているに考えられる。これは硫酸塩と酸化鉄豊富な堆積物が堆積している。クレータは現在は風の働きによってこの堆積物の下から掘り起こされている。

ホートンクレータはエンデバーほど大規模に埋め尽くされてはいない。中新世時代の間の数百万年の間にクレータは湖となり、この時代に北極カナダに生息した動植物の堆積物が記録されている。

ホートンクレータの現在は、ホートン川(図2)によって水は排出されている。その結果、再び湖になることを防いでいる。水による現在の浸食によって、堆積物はクレータの内部から取り除かれつつある。しかし、最後の氷期最盛期の間に、クレータは厚さ数百メートルの氷で完全に満たされた。ただ、氷床が低温のため大規模な浸食は免れた。つまり、地形の基盤は大部分が凍り付いていたのである。二つのクレータの情景を図3と図4に示す。

この二つの画像は見たことがあるが、実に美しいコントラストを表している。風景の一つは、ここのハブの窓から、他方は火星のオポチュニティーミッションチームのローバーによって撮影された。二つの惑星の二つのクレータ、でも目標は同じだ。


図3:ヘインズ峰のFMARSからホートンクレータを見る。地平線は16キロメートル先のクレータの壁を示す。


図4:エンデバークレータ、オポチュニティローバーチームが撮影(火星)


8月14日 日報
ジョン・クラーク

我々の模擬実験は、最後の激しい天気の中で終了した。実験は終了したので、私はこの炉ポートを、火星歴日報というより、デーリーリポート呼んでいる。一晩中強風が吹きまくったが、真夜中には雨がやんで小雪に変わった。この雪は朝8時には止んだ。気温はマイナス3度まで下がり、水たまりに氷が張った。相当な風速冷却があり、発電機を起動するために外に出た。もちろん、模擬実験は終了し、太陽も顔を出した。我々は実験開始以来、最高の太陽の日差しを楽しんでいる。最初にこの場所に到着した時の太陽の日差しを思い出す。しかしながら、風速冷却は明らかに非友好的だ。ポールと私は最後のクレータに行き、彼のデーター記録装置を回収した。

複雑な気持ちだが、ミッションは成功裏に終了し、これが最後と思うと寂しい。でも、この場所に滞在する機会が持てたことは大変光栄に思う。火星協会に感謝! 今日は撤収の準備で多忙になるだろう。出来る限り荷物をまとめ、試料を箱詰めにする。着陸に向けて着陸場所の地面の状態を確認する。どちらかというとぬかるんでいる。燃料の予定配給を変更するためにATVトレーラーを改造した。IBPMのために最後のグループディスカッションを行った。

我々は7月16日にこの地に到着した後、模擬実験の準備に4日間を費やした。最後の終了のために、同じぐらいの日数を過ごすことになるだろう。火星に行くだろうクルーも初めと終わりに同じ程度の日数を、準備と後片付けに費やすだろう。これは所要時間に関して固定費といった感じだ。その他には、火星での短期滞在より、より長期の滞在を議論することになるのかも。

南極大陸探検に向かったサー・アーネスト・シャクルトンの「エンデュランス号」遠征隊に関するドキュメンタリードラマを見終えるつもりだ。シャクルトンとクルーが南極で体験した困難な状況に直面することなく北極を去ることが出来ることを期待したい。